ごあいさつ

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 アートマネジメントは、1960年代の米国で発達した考え方で、日本語に訳せば「芸術文化の経営」ということになりましょうか。わが国には1990年代に伝わりました。芸術文化にも経営が欠かせないという理念は、バブル経済崩壊後の景気低迷期だったわが国で急速に広まっていきました。
 1980年代は未曾有の好景気にわき、自治体の税収も豊かだったため、全国各地で文化施設の建設が計画あるいは着工され、「ハコモノの時代」とされました。続く1990年代は、先に設けた施設をいかして文化事業をどのように展開するか、が問われました。「イベントの時代」だったと振り返っています。
 対して2000年代に入ると、芸術文化の組織や団体をどのように経営していくのか、を真摯に再検討する機運が高まります。「経営を見つめ直す時代」に突入していく訳です。このように過去30年余りのなかで、アートマネジメントに対する研究も深化していきました。
 アートマネジメントの実務としては、組織や人事の管理、財務や資金調達(ファンドレイジング)、 マーケティング、社会貢献活動など幅広いものがあります。アートマネジメントが展開される現場としては、劇団や楽団などの実演団体、美術館や劇場・音楽堂などの文化施設、および鑑賞組織や助成財団などの支援団体などを指摘することができます。
 研究でいえば、経営学、経済学、法学、行政学、政策科学などの社会科学的なアプローチがある一方で、芸術学、美学などの人文科学的なものの見方は欠かせません。そして建築学などを活かした自然科学的な分析を行うこともできます。極めて学際的な新しい学問として注目されているのです。
 日本アートマネジメント学会は1998年、仙台市内で設立されました。会則の第2条によると、本学会の目的は次のように掲げられています。「芸術文化に関するマネジメントの研究を行い、芸術文化にかかわる地域活動の発展に資することを目的とする」。この考えのもと、本学会には、アートマネジメントの研究や実践に取り組む全国の研究者や実務家たちが集い、日々、研鑽を重ねています。
本学会にはいくつかの特色があります。1つには連邦制を採用していることです。2015年12月現在、北から東北、関東、中部、関西、九州の5部会が設けられており、部会ごとに例会を開くなど活発な活動を展開しております。そして毎年秋に開かれる全国大会では会員が一堂に集まり、研究の成果を披露してきました。第1回全国大会は1999年に仙台市内で行われ、以後、全国各地で全国大会を開催してまいりました。2015年11月には、愛知芸術文化センターと名古屋芸術大学で第17回全国大会を開きました。
 2つには、実に多様な会員が参加していること。大学教員などの研究者だけにとどまらず、多くの実務家も加わっています。文化行政部局の公務員、文化会館の職員、博物館・美術館の学芸員、企業メセナの担当者、実演団体の職員、フリーのプロデューサー、学生、ボランティアなど、肩書や職業に関わらず、仲間の輪に入っています。だからこそ芸術文化分野を超えて、人的ネットワークを構築するには絶好の場なのです。
 3つには、研究発表の場だけでなく、学会あるいは部会が主催して、講演会等の文化事業に取り組んでいること。自治体や放送局などと組んで協働事業を行っていることも、従来の学会にはあまり見られない点でしょう。実践することも学会活動の1つなのです。
 先に触れたようにアートマネジメント研究には学際的なところがあります。初期の段階では、芸術イベントの運営のありよう、あるいは補助金の獲得方法などに重きが置かれていた印象がありました。これらは狭義のアートマネジメントの実践と研究としては貴重な取り組みで、欠かせないものです。しかしマネジメント研究である訳ですから、イベント実施のことだけでなく、組織の効率的運営、人事管理や資金調達のありようなどを考える、社会科学的な要素も強いと受け止めています。会社でいえば経営者の立場、たとえば社長室長あるいは経営企画室長などの視線で物事を見て考えることに通じると思うのです。
 2012年に成立した「劇場、音楽堂等の活性化に関する法律」(劇場法)の第13条では、劇場、音楽堂等が養成及び確保するべき専門的能力を有する人材に言及しています。専門的能力を有する人材の具体例として、制作者、技術者、実演家に加えて、「経営者」が盛り込まれました。アートマネジメントを実践する人材の必要性が具体的に指摘されたのでした。本学会には強い追い風が吹いていると感じています。
 みなさん! 日本アートマネジメント学会に加わり、一緒に研鑽してみませんか。わが国のアートマネジメントの水準を高めることは、芸術文化の振興につながり、地域の活性化に貢献すると考えるからです。幸いなことがあります。2016年3月をめどに北海道部会が設立される予定です。そして同年11月には札幌市で第18回全国大会を開催するための準備が進められています。新しい仲間たちを歓迎しつつ、既存の部会にも新たな人材が加わってくださることを期待いたします。

 門戸は開かれています。各部会の会員となられて、芸術文化による地域の振興に貢献されることを願っています。

 

2015年11月

会長 松本 茂章